映像作品に遺された宇宙的恐怖の爪痕
POST:19/03/01UPDATE:19/03/04
That is not dead which can eternal lie,
And with strange aeons even death may die.
久遠に臥したるもの死することなく
怪異なる永劫の内には死すら終焉を迎えん
原文:H・P・lovecraft『The Call of Cthulhu』より
訳文:国書刊行会『定本ラヴクラフト全集1』より
ようこそ狂気の世界へ
世の中には、様々な神話が伝えられています。
ギリシャ神話、ローマ神話、ケルト神話に北欧神話に日本神話などなどなど……その多くが、これまで様々な創作物に活用されてきました。
そんな数々の神話の只中にあって、一際異彩を放つ存在があります。それが、『クトゥルフ神話』。アメリカのホラー作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトによって創出され、オーガスト・ダーレスらによって広められた一連の作品群は、『サイコ』のロバート・ブロックや『シャイニング』のスティーヴン・キングなどの有名ホラー作家を世に送り出しました。
日本においても、俳優の佐野史郎が熱狂的(あるいは狂信的な)なラヴクラフティアンとして知られ、氏が1992年に主役のカメラマンを演じた『インスマスを覆う影』は、その完成度の高さと氏の熱演により、今でも高い評価を獲得しています。
そもそもクトゥルフ神話とは
クトゥルフ神話(あるいはクトゥルー神話、またあるいはク・リトル・リトル神話など)は、すでに少し触れたとおり、所謂『神話』とされている伝承とは別物です。
その源流は作家ラヴクラフトの一連のホラー小説作品群。初期作品の『ダゴン(Dagon)』や『エーリッヒ・ツァンの音楽(The Music of Erich Zann)』などを経て、1928年に発表された『クトゥルフの呼び声(The Call of Cthulhu)』。クトゥルフ神話の名称は、この『クトゥルフの呼び声』から来ています。
ラヴクラフトがこの体系化をよしとしたかどうかはともかく、このクトゥルフ神話体系は彼の作品の熱心な愛読者であったオーガスト・ダーレスが中心となって多くの作家に広められ、現在もなお、そのフォロワーを増やし続けています。
ラヴクラフトが描いた宇宙的恐怖
ラヴクラフトが自らの小説で描いたのは、渺茫たる宇宙に潜む、人間には抗うどころか見ることすら赦されない恐怖でした。これを氏は『宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)』と名付け、見ただけで正気を失う人間の知識の埒外にいる外宇宙や、かつて地球を支配していた吐き気を催す異形を生み出し、物語の登場人物を尽く狂気と絶望の世界に送り込みました。
アメリカのホラー作品といえば吸血鬼やゾンビなど『人間が倒すことも可能なモンスター』というのが大多数を占めている中、氏はこれらを単純に描くことはしませんでした。ただひたすらに、人間には太刀打ちできない絶対の存在を描き、それに触れたものや禁断の知識を求めたものに待つ最期を書き続けました。
ダーレスの罪
そんなラヴクラフトの作品を広めるために尽力したオーガスト・ダーレスですが、その一方で彼はある罪を犯しています。
元来、ラヴクラフトが描いた宇宙的恐怖は、人間の概念を超越した存在です。すなわち、人間が理解可能な分類や統計は通用しません。
通用しないはずでした。
ダーレスは一連の作品群を『クトゥルフ神話』としてまとめ上げる際、神話生物達を四大元素(地・水・火・風)に当てはめ、更に善と悪の構造を作り上げました。
これによりダーレスは、生前不遇の作家であったラヴクラフトの作品を世に知らしめるという功績を残す一方で、本来のラヴクラフト作品が持つ絶対的恐怖を陳腐化するという大罪を犯してしまったのです。
……しかしながら、ダーレスがいなければ生まれなかったであろう作品は多数存在します。また、彼が行動を起こさなければラヴクラフトという作家にスポットが当たることはなかったでしょう。
クトゥルフ神話関連アニメ
それでは、世に多数存在する映像作品から、クトゥルフ神話に影響を受けているものを9作品ご紹介いたします。
まずは日本のアニメーション作品から参りましょう。なおご紹介の都合上、ネタバレに踏み込むこともございますのでご了承ください。
機神咆吼デモンベイン
日本におけるクトゥルフ神話の普及においてどうしても外せない作品があります。
それが、『機神咆吼デモンベイン』。原作は2003年にニトロプラスから発売されたアダルトPCゲーム『斬魔大聖デモンベイン』で、同社取締役であり、『魔法少女まどか☆マギカ』の脚本で知られる虚淵玄が監修として参加しています。
同作品は『荒唐無稽ロボットアクションADV』と銘打たれ、主人公の私立探偵・大十字九郎が、パートナーのアル・アジフとともに巨大ロボット・デモンベインを操縦、秘密結社ブラックロッジとの激闘を描くという、そこだけ切り取ればおおよそ先述の宇宙的恐怖とは最も縁遠い作品です。
しかし、その世界観はクトゥルフ神話の世界以外の何物でもありません。
物語の舞台はアメリカはマサチューセッツ州にある架空の都市『アーカム・シティ』。このアーカムという地名は、ラヴクラフトや氏のフォロワーによって幾度となくクトゥルフ神話作品に登場した地名であり、この地にある『ミスカトニック大学』は、九郎がかつて通い、ある事件をきっかけに中退した大学でもあります。
ミスカトニック大学では元ネタどおり、ヘンリー・アーミティッジ教授やラバン・シュリュズベリィ教授が教鞭を振るっており、両者とも九郎の恩師として登場します(シュリュズベリィ教授は原作ゲーム版の続編・機神飛翔デモンベインに登場)。また、ラヴクラフト作品の1つである『ダンウィッチの怪(The Dunwich Horror)』での出来事が過去に起きているという描写もあります。
魔導書アル・アジフ
さて、九郎のパートナーであるアル・アジフですが、彼女もまた、クトゥルフ神話に強い関連を持つ人物です。彼女は作中、初めて九郎に名前を明かしたときにこう言っています。
「我が名はアル・アジフ! アブドゥル・アルハザードによって記された、世界最強の魔導書なり!」
彼女は人間ではなく、力のある魔導書に宿った精霊。このあたりはいかにも日本のエンターテインメント作品らしい設定ですが、アルには、本来の名前よりも広く知られた名前が存在します。
その名は、ネクロノミコン。ゲームをよくやる方なら、馴染みのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
例えば、『テイルズオブファンタジア』のクラース・F・レスターの最強装備。例えば、『ワイルドアームズ』のレア装備。例えば、『ペルソナ5』のペルソナ。
他アニメ作品でいえば、『とある魔術の禁書目録』のインデックスが収蔵する魔導書の1つでもあり、カードゲーム『WIXOSS』には《コードアンシエンツ・ネクロノミコ》が存在します(ちなみにWIXOSSには、シュブ=ニグラスやヨグ=ソトース、ニャルラトホテプなどクトゥルフ神話の代表的な邪神が名を変え姿を変え登場しています)。
アル・アジフ(より正確にはキタブ・アル=アジフ)はそれらネクロノミコンの原書であり、原典であるクトゥルフ神話作品群においては原書の登場こそ限定的ではあるものの、不完全な写本が様々な形で登場しています。
なお、ネクロノミコンにせよ原書のアル・アジフにせよ、クトゥルフ神話らしく『読むと正気を失う禁断の知識が記された魔導書』であるとされ、書そのものに邪悪な異形が宿ることもあるとされています。
ブラックロッジの目的
作中の敵組織として登場する秘密結社ブラックロッジ。当初はその目的は、勧善懲悪モノによく見られる世界征服とされていました。
しかし、中盤に明らかにされたその真の目的は、『大いなるCの復活』というもの。大いなるCとはすなわちクトゥルフ(Cthulhu※作中表記ではクトゥルー)のことであり、彼の者が眠る太平洋到達不能極そばにある海底都市ルルイエの浮上とクトゥルフの覚醒が、ブラックロッジが目指すものでした。
この海底都市ルルイエの浮上とクトゥルフの覚醒は、原典である『クトゥルフの呼び声』でも言及されており、ルルイエがほんの僅かでも海面に姿を見せるだけで世界に様々な影響をもたらします。オーガスト・ダーレスの『永劫の探求』においては、シュリュズベリィ教授の手によって核攻撃が行われてもいます。
果たして九郎はブラックロッジの野望を食い止めることができるのか……燃え上がるような3つの目が、這い寄り、嘲笑し、見つめる中、物語は佳境へと――
機神咆吼デモンベイン配信サイト
2019年2月22日現在。アニメ『機神咆吼デモンベイン』は、全12話でdアニメストアで見放題配信中です。また、プライムビデオやビデオマーケットではレンタル配信がされておりますので、興味がおありでしたら是非ご覧ください。
原作ゲームの斬魔大聖デモンベインはクトゥルフ神話関連の書籍でも名前を言及され、頁を割かれるほどに日本におけるクトゥルフ神話普及に一役買った作品です。2019年4月26日には、デモンベイン15周年記念としてWindows版機神咆吼デモンベインの発売も予定されています。
個人的には、アニメ版は1クールであるが故にカットされたシーンが大量にあるため、ゲーム版のプレイを強く推奨いたします。
少しブレイク:タイタス・クロウサーガ
デモンベインの登場人物には元ネタがあるキャラクターが多数存在します。
ブラックロッジの首魁であるマスターテリオンの元ネタはアレイスター・クロウリーですし、ブラックロッジに参加している○○○○科学者ドクター・ウェストは、ラヴクラフト作品の1つである『死体蘇生者ハーバート・ウェスト』のハーバート・ウェストその人です。
では、主人公の大十字九郎は? 彼にもしっかりと元ネタがあります。
ブライアン・ラムレイによって著された、『タイタス・クロウの事件簿』を始めとする『タイタス・クロウサーガ』の主人公であるタイタス・クロウ。名前もさることながら、その立ち位置も非常に似ています。
以下に両者の特徴をまとめました。なお、デモンベインおよびタイタス・クロウサーガのネタバレが含まれますのでご注意ください。
九郎 | タイタス | |
---|---|---|
職業 | 魔導探偵 | オカルト探偵 |
活躍 | アーカム・シティでブラックロッジと戦い、最後にはマスターテリオンとの決着のために現在過去未来異世界平行世界で暴れまわる | 周囲に起こる怪事件を解決しつつ、最後には現在過去未来異世界平行世界で暴れまわる |
後に | 最も新しき旧神として、アル・アジフやデモンベインとともに邪神と戦い続ける(ゲーム版旧神エンド、及びアニメ最終話に登場) | 彷徨った挙げ句超人サイボーグ化。ヨグ=ソトースとの決闘に挑む |
と、実質的に『デモンベインの原典=タイタス・クロウサーガ』といってもさほど差し支えありません。
実際、タイタス・クロウサーガは宇宙的恐怖を描くことよりも『クトゥルフ神話冒険譚』という色合いが強く、正道のクトゥルフ神話とは異なる作品です。
デモンベインが好きならばタイタス・クロウサーガも楽しめる作品ですので、機会がありましたらぜひご一読あれ。
這いよれ!ニャル子さん
こちらもまた、デモンベイン同様に日本のオタク文化とクトゥルフ神話が融合した作品として知られる作品です。『這いよれ!ニャル子さん』そのものは見たことはなくても、『(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!』や『\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!』は聞いたことがあるという方もいらっしゃるでしょう。
デモンベインは、蓋を開けてみなければクトゥルフ神話作品だとは分かりません。誰が『クトゥルフなどの邪神、あるいは神話生物と巨大ロボットの殴り合い』を想像できるでしょうか。ですがこちらは、タイトルを見ただけで分かる人にはそれと分かる作りです。
クトゥルフ神話において、恐らくは人間にとって最も吐き気を催す邪悪・ニャルラトホテプ。その異名は、『這い寄る混沌』。妙に可愛らしいタイトルの中で邪悪な要素が際立っています。
殊当時はniconicoなどを発端として『クトゥルフ神話TRPG』のブームが到来していたタイミング。多くの探索者達が、ニャル様に辛酸を嘗めさせられていたことでしょう。あるいは、ダイスの神に扮した混沌が、キーパーにも牙を剥いていたかもしれません。そんな中でこんなタイトルを見せられては、猫をも殺す好奇心が鎌首をもたげてきても仕方がないことでしょう。
閑話休題。ニャル子さんの世界観は、他のクトゥルフ神話作品とはやや趣が異なります。この世界では現実の世界の通りラヴクラフトらによって邪神の存在が小説として描かれ、あくまで架空の存在として伝わっています。
そんな世界で、突如として怪物に襲われた八坂真尋。絶体絶命の状況下で、彼は1人の少女に救われます。怪物を一蹴した彼女は、真尋にこう名乗ります。
「いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌、ニャルラトホテプ、です!」
斯くて、ラヴ(クラフト)コメディの幕は開かれたのでした。
ニャル子さんとクトゥルフ神話
作中の世界では『地球を訪れた宇宙人がラヴクラフトやダーレスと接触した結果生まれたもの=クトゥルフ神話』という前提があります。よって、氏らによって描かれた神話生物と作中に登場するニャル子を始めとした宇宙人は、同一種族であっても同一個体ではありません。
ただ、ダーレスによって用意された四大元素対応とそれによる敵対設定は、種族間の不仲という形で再現されています。
ニャルラトホテプは土に分類される神格であり、火に対応する、みなみうお座のフォマルハウトに住まう生ける炎クトゥグアは天敵とされています(ダーレスの『闇に棲みつくもの』では、クトゥグアの眷属である炎の精がニャルラトホテプの地球上の拠点であるンガイの森を焼き払っています)。他の水と風については、それぞれクトゥルフとハスターが当てはめられています。
ニャル子さんの世界でもニャルラトホテプ星人とクトゥグア星人は基本的に仲が悪く、同様にクトゥルー星人とハスター星人も相容れぬ間柄とされています……が、作中に登場するクー子(クトゥグア)はニャル子(ニャルラトホテプ)に度を越した愛情を持っていますし、ハス太(ハスター)とルーヒー(クトゥルー)の仲も良好なので、ややこの設定は形骸化していたと言わざるを得ないでしょう(クー子の従姉のクー音はニャル子を嫌悪していたため、実際のところ形骸化とまではいきませんが)。
原典のオマージュはそれ以外にも、浮上してしまった上にクトゥルーが運営するテーマパークと化したルルイエ、ハス太が司書を務めるセラエノ図書館など随所に見られ、神話生物も各所で登場し、単にクトゥルフ神話から名前を借りただけの作品ではありません。
這いよれ!ニャル子さん配信サイト
2019年2月22日現在、シリーズとして『這いよる!ニャルアニ』『這いよる!ニャルアニ リメンバー・マイ・ラブ(クラフト先生)』のFLASHアニメと、『這いよれ!ニャル子さん』『這いよれ!ニャル子さんW』『這いよれ!ニャル子さんF』の計5作制作されています。
これらのうちdアニメストアでは全作品が、HuluではFLASHアニメ2作以外の3作品が、FLASHアニメ第1期以外の4作品が で、FLASHアニメ2作品がビデオマーケットでそれぞれ配信中です。ちょっと変わったクトゥルフ神話に触れてみたいなら、ニャル子さんシリーズをオススメいたします。
少しブレイク:ハスターとは
クトゥルフ神話の邪神の1柱として知られている名状しがたきもの・ハスターですが、もとを正せばこの神格はクトゥルフ神話より以前に登場した存在でした。
初出はアンブローズ・ビアスによる『羊飼いのハイータ』で、これが発表されたのはラヴクラフトがこの世に生を受けて間もなくの1891年のことでした。この頃のハスターには、恵み深い羊飼いたちの神という役割が与えられています。
その後1895年にロバート・W・チェンバースが発表した『黄衣の王』であり、この頃から徐々に、現在クトゥルフ神話の神格として知られるハスターの原型が出来上がり始めていました。
その後時を経て、ラヴクラフトが『闇に囁くもの』でハスターに言及し、ダーレスの『ハスターの帰還』によってクトゥルフ神話に本格的に登場するようになります。
その他クトゥルフ神話が関係するアニメ作品
ここまででデモンベイン、ニャル子さんと、日本のアニメにおける代表的なクトゥルフ神話作品をご紹介いたしましたが、それら以外にもクトゥルフ神話的要素を取り込んだアニメ作品は多々あります。
ここからは、それらに簡単に触れていきたいと思います。
デジモンアドベンチャー02
デジタルペットの一種として幅広い世代に人気を博しているデジモン。そのアニメーション作品第2弾である『デジモンアドベンチャー02』。本来子供向けに作られた作品ですが、こちらにもクトゥルフ神話に関連する存在が登場します。
それが登場するのは、第13話『ダゴモンの呼び声』。タイトルからしてクトゥルフの呼び声に非常に近いタイトルですが、実際にその内容もクトゥルフ神話的なものです。
水滴。波の音。鉛色の海。朽ちた漁村……日常の中に、ふとまぎれこむイメージ。現実とも幻ともつかない異様なイメージに不安と嫌悪を覚えながらも、次第に心を奪われていくヒカリ。そう、彼女は気づいていたのだ。それが彼女を必要とする何者かの呼び声であることに。そして自分はその呼び声に決して逆らえないことに……
と、いうよりも。もはや『インスマスの影』そのものです。
登場するデジモンはタイトルにもなっているダゴモン。名称的にはクトゥルフの眷属であるダゴンを彷彿とさせますが、その容姿はもはやクトゥルフそのもの(ちなみに、本来ダゴンは前述のハスターと同様、クトゥルフ神話とは関係のない存在でした)。
また、タイトルコールで表示されるデジモン文字は、本項冒頭で述べた一文と同様に有名な祝詞を示しています。
すなわち、フングルイ ムグルウナフ クトゥルフ ルルイエ ウガフナグル フタグンと。
2019年2月22日現在、デジモンアドベンチャー02はdアニメストア、及びU-NEXTにて見放題配信中です。
その他作品一覧
細かいものまで拾っているときりがありませんので、上記3タイトル以外にクトゥルフ神話要素が登場するアニメ作品をいくつかピックアップして表にまとめました。
タイトル | 関連する内容 |
---|---|
怪物王女 | 冒頭、姫が詠唱する呪文が本項で示した英文。第4話で登場した半魚人など |
文豪ストレイドッグス | 登場人物の中にハワード・フィリップス・ラヴクラフトがおり、その能力名が旧支配者(グレート・オールド・ワン) |
THE ビッグオー | 第7話にダゴンの名を持つ敵が登場。メインライターはデジモンアドベンチャー02第13話と同じ小中千昭氏 |
キスダムR -ENGAGE Planet- |
アヴホース(アブホース)やカダス、ルルイエ、ミ=ゴなど、名前にクトゥルフ神話関係の単語が含まれるものが多数 |
Fate/zero | キャスターの宝具『螺湮城教本』。螺湮城とはルルイエのことであり、原典ではルルイエ異本として知られている人皮装丁の魔導書 |
戦え!!イクサー1 | 敵組織の名前がクトゥルフ |
ここに取り上げたもの以外にもクトゥルフ神話の単語は様々なアニメ作品に流用されています。またアニメ作品のみならず、クトゥルフ神話と日本のオタク文化は親和性が高く、コミック、ライトノベル、ゲームにおいても多数取り上げられています。
もしかしたら皆さんがすでに触れたことがある作品の中にも、宇宙的恐怖は潜んでいるかもしれません。
ドラマに見るクトゥルフ神話
TVドラマにおいても、クトゥルフ神話が関係している作品は存在します。流石にアニメ作品ほどの親和性はありませんしそれほど数もありませんが、ここからは日本のドラマにおけるクトゥルフ神話関係のものを少しだけ取り上げてみましょう。
インスマスを覆う影
冒頭にてわずかに触れていますが、タイトルからしてど直球。紛うことなきラヴクラフトの名作『インスマスの影』を佐野史郎主演でドラマ化した作品です。
舞台が日本になっていること以外は原典に非常に忠実であり、アーカム→赤牟、キングスポート→王港、インスマス→蔭洲升と、原作ファンが即座にそれと分かる地名となっています。
特筆すべきは原作にあるジメジメとした不気味な雰囲気がこちらにも伝わるほどに作り込まれた映像と、何よりもラストシーンではないでしょうか。下手に新解釈を設けず、余計なものを持ち込まず、ただただ『インスマスの影』の実写化を目指した本作は、和製クトゥルフ神話ドラマの金字塔といっても過言ではありません。
惜しむらくは、古い作品でかつどうしてもマイナーなものであるが故にDVDが存在せず、現状VHSも絶盤状態であることから、視聴そのものの難易度が高いこと。各動画配信サービスでも2019年2月現在配信は確認されていません。
ウルトラマンティガ
ウルトラマンといえば言わずとしれた円谷プロの傑作特撮ドラマ。『ウルトラマンティガ』は、そのウルトラマンシリーズの平成初期3部作の第1作目で、従来作品の設定は引き継がれず、新たな設定が用意された作品です。
その『新たな設定』とクトゥルフ神話が、非常に密接な関係にあります。
ティガから始まる平成初期3部作の世界では、『古代文明の守護者であった光の巨人』であり、この古代文明を滅ぼした元凶が、古代都市ルルイエとともに現れた『邪神ガタノゾーア』。その尖兵として『超古代尖兵怪獣ゾイガー』も登場し、第51話、第52話(最終回)に渡りティガと人類を苦しめました。
ちなみに、ウルトラマンティガの脚本陣には、三度登場小中千昭氏がいらっしゃいます。
ガタノゾーアの元ネタは旧支配者ガタノトーアであり、こちらでも同様、奉仕種族としてゾイガーの元ネタである『ロイガー』を従えています。ただしティガ作中のガタノゾーアは、原典同様相手を石化させる力はあるものの、ルルイエから現れる点やそのデザインからどちらかといえはクトゥルフに近いものとなっています。
ちなみに、ルルイエと光の巨人にまつわる話は後の劇場版『ウルトラマンティガ THE FINAL ODYSSEY』で全ての真相が描かれます。
ウルトラマンティガ配信サイト
2019年2月22日現在、残念ながらウルトラマンティガを配信している動画配信サービスはありません。
少しブレイク:本当は強いスライム
スライムといえば、RPGをよく遊ばれる方にとっては序盤の雑魚というイメージが強いかと思います。殊『ドラゴンクエスト』や『テイルズ』においてはより顕著ではないでしょうか。
ですが本来、現在スライムと呼称される不定形生命体は、人類が太刀打ちできる存在ではありません。
ラヴクラフト作『狂気の山脈にて(At the Mountain of Madness)』。この作品に、モンスターとしてのスライムの原型とされる神話生物が登場しています。
神話生物『ショゴス』は、悪臭を放つ玉虫色の不定形生物とされ、「テケリ・リ」という鳴き声で鳴くことが知られています。
一見して知性が低いような印象を受けるショゴスですが、その実情はそうとは限りません。彼ら自体の知性は決して低くなく、上位種のショゴスロードなど、人間に化けて社会に溶け込んでいる種も確認されています。
もしかしたら、あなたの隣人も……「テケリ・リ! テケリ・リ!」
クトゥルフ的映画作品
続きまして、クトゥルフ神話の要素が見られる映画作品を、国内外問わず一挙ご紹介いたします。
丁度『狂気の山脈にて』の話題に触れたことですし、まずはこちらからどうぞ。
ドラえもんのび太の南極カチコチ大冒険
国民的アニメ『ドラえもん』。その劇場作品もまた、テレビシリーズ同様長年親しまれています。
この『ドラえもんのび太の南極カチコチ大冒険』は、2017年に公開された通算37作目の劇場版ドラえもんです。
さて、ここまでお読みいただいた方ならば、ドラえもんとクトゥルフ神話がどうしても結びつかないと首をかしげていることでしょう。私の場合も、初めてタイトルを聞いたときに「ん? 狂気山脈にでも行くのか?」なんて冗談交じりに考えたものの、それがまさかこんなことになろうとは思いもしませんでした。
一応はじめに断っておきますが、本作には別段クトゥルフ神話の用語や舞台、神話生物が登場するわけではありません。何も知らない方にとっては、大雑把な言い方をすればいつもどおりの劇場版ドラえもんです。描かれているのは宇宙的恐怖では決してなく、友情と冒険なのですから。
ですが、クトゥルフ神話に触れたことがある方は皆口を揃えてこう言います。「あれは、『ドラえもん のび太の狂気山脈』だ」と。
遥か太古の南極大陸
本作にせよ『狂気の山脈にて』にせよ、南極を舞台とした冒険作品の様相を呈しています。そして、いずれの作品にも関わってくる重要なポイントは、『太古の南極に存在した何か』。
作中、ドラえもんたちは南極から流れてきた氷山の中にリングを発見します。腕輪にも似たそれを調べてみると、それが作られたと思われるのは10万年前。真相を確かめるため南極へと向かった彼らは、そこで氷に閉ざされた都市遺跡を発見します。
他方、『狂気の山脈にて』でも地質調査を目的として語り部を含む調査隊が南極に赴きます。その地で見つけたのは、古生物の化石や古代の地盤に埋まった奇妙な縞模様を持つ粘土板。そして、植物と動物の特徴を併せ持っているように思われる五芒星の頭部を持つ生物の化石。
いずれの作品においてもこれら太古の物品の発見を起点として物語が展開していきます。
ですがそれだけなら、両者の間には類似点はないといってもいいレベルです。本作が公開された2017年ならまだしも、『狂気の山脈にて』が公開された当時はまだまだ南極は未開の地といっても過言ではなかったのですから。そこに古の何かが隠されていると考えられても、不思議はありません。
では、何故こうも、『ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』は、『ドラえもん のび太の狂気山脈』とまで言われるのでしょうか。
両者の類似点
先述の通り、『狂気の山脈にて』には神話生物ショゴスが登場します。
他方、『南極カチコチ大冒険』には、異星人である古代ヒョーガヒョーガ星人が作り出した『ブリザーガ』が登場します。このブリザーガとショゴスには共通する点は存在しないものの、共に、
- 古代の地球に飛来した異星人によって作られた
- 南極の奥深くに封印されている
- 種族や文明を滅ぼすなど非常に危険な存在
と描写されています。また、ブリザーガの他に『オクタゴン』という石像も登場し猛威をふるいますが、これの外観はタコ、もしくはイカといった軟体生物であり、古代遺跡にいるという点と併せてクトゥルフとの共通点が見られます。
作中のBGMにおいても、ある種ドラえもんらしからぬ不穏なものが用意され、そこはかとない不安感を煽ります。
勿論、すでに申し上げたとおり本作はあくまでドラえもんであり、主題となるのは『友情と冒険』です。他のクトゥルフ神話作品とは違いそこには宇宙的恐怖による絶望はなく、たどり着く結末はバッドエンドではなくハッピーエンドですのでご安心ください。
ドラえもんのび太の狂気山脈配信サイト
2019年2月22日現在、『ドラえもん のび太の狂気山みゃ……もとい、南極カチコチ大冒険』は、ビデオパスで同年6月16日まで見放題配信中です。国民的アニメと宇宙的恐怖の奇跡の融合を、お楽しみください。
DAGON
ダゴンといえばラヴクラフト初期の作品にして、後にクトゥルフ神話の原典とも呼ばれるようになった掌編です。ですがここで紹介する『DAGON』は、どちらかといえば『インスマスの影』のテイストに近い作品となっています。
ちなみにダゴンも、ハスターと同様本来はクトゥルフ神話と関係のない存在で、古代パレスチナで信仰されていた神です。
さて、『インスマスの影』といえば、すでにドラマの項目でご紹介いたしました『インスマスを覆う影』がございますが、単純に『インスマスの影』の映像化という観点でいえばあちらが、そのことを抜きにしたエンターテインメントホラー作品という観点ではこちらに軍配があがるでしょう。
あちらと同様、舞台こそスペインの田舎町『インボッカ』となってはいるものの、雰囲気はまさしくインスマスそのもの。村人たちの不気味さも、原典に忠実だったといえます。
では何が問題だったのかというと、原典にはないグロテスク要素とエロ要素を盛り込んでしまったこと。
クトゥルフ神話の生物自体がグロテスクであるという話はさておき、本作ではかなり直接的なグロ要素があります。生きた人間の皮を剥ぐという描写が。
原作の『インスマスの影』にはそのような場面はありません。それ以前に、ラヴクラフトはそういった『分かりやすい生命の恐怖』を描いたのではありませんから、この場面はクトゥルフ神話的には余分ではないでしょうか。
ラブシーンについてもまた同様。ラヴクラフト作品において、(私が覚えている限りでは)ラブロマンス要素が介在した作品はありません。先述の『タイタス・クロウサーガ』には多少ありますが、あれはあれでまた毛色が違います。
ただ、だからといって駄作であると切って捨てるにはあまりに惜しい作品かと思いますので、機会がありましたらぜひご視聴ください。とはいえ、日本未公開作品でいずれの配信サイトでも配信されておらず、DVD等を買うよりほかないのですが。
遊星からの物体X(1982年)
こちらは正確にはクトゥルフ神話作品ではありません。原作はジョン・ウッド・キャンベルによる短編小説『影が行く(Who Goes There?)』であり、また、1951年に公開(日本公開は1952年)された『遊星よりの物体X』のリメイク作品でもあります。
通信が途絶した南極基地という極限状態において、正体不明の何かに襲われ、同化される隊員。誰が人間で誰がそうでないか分からない状況下で疑心暗鬼に陥る彼らの姿を描いた本作は、今もなおSFホラーの傑作と名高く、殊、『それ』と称される物体の、地球上の生物を断片的に取り入れた非常にグロテスクな造形は後のクリーチャーデザインに多大な影響を与えています。
こちらをあえてクトゥルフ神話作品に列挙したのは、『地球外の生命体による人類の常識を超えた恐怖』や『南極という極地における絶望』がクトゥルフ神話との親和性が非常に高いと感じたこともありますが、最たる理由は、クトゥルフ神話を題材としたテーブルトークRPG『クトゥルフ神話TRPG(以下COCTRPG)』において、件の物体がクリーチャーとして設定されているためです。
COCTRPGのデータ集『マレウス・モンストロルム』において『物体X』の名で記載されている『それ』は、他の神話生物とも引けを取らない凶悪なクリーチャーとして登場します。
実際にキーパーとして使用してみた感想としては、『やや使いづらさがあるが、うまく回せば映画同様の疑心暗鬼状態に探索者を陥れることができる』といった具合です。
何はともあれ、単純なモンスターパニック映画とは一線を画す本作、未見の方はご視聴を強くおすすめいたします。
2019年2月22日現在、『遊星からの物体X』は、プライムビデオ、Netflix、U-NEXT、TSUTAYA TVにて、これの前日譚である『遊星からの物体Xファーストコンタクト』はプライムビデオ、Netflix、U-NEXT、ビデオマーケットにて見放題配信中です。
キャビン
2012年に公開(日本では2013年公開)された『キャビン』は、作中にて直接的にクトゥルフ神話に関係する何かが登場するわけではありません。ですがその背景設定が、明らかにクトゥルフ神話のある神格を想起させるものでした。
本作は、前半部はそれまで作られてきたホラー映画の様相をそのままなぞります。休日に出かける若者グループ。出先でモンスターに襲われ1人が死に、残った者達は孤立した小屋に逃げ込む……この展開に、既視感を覚えるホラー映画ファンの方は多数いらっしゃることでしょう。
では、実はそれらが全て誰かによって仕組まれたことだとしたら?
この『キャビン』の前半で引き起こされる出来事は、全てある組織によって仕組まれたこと。ホラー映画の定番をなぞって人を殺すことに何の目的が……これ以上は流石にネタバレにも程がありますので控えますが、最後までご覧いただければ、『ああクトゥルフ神話的だ』とご納得いただけるでしょう。
2019年2月22日現在、『キャビン』は、プライムビデオ、dTV、Netflix、U-NEXTで見放題配信中です。
その他の映画
今回ご紹介した映画作品はほんのごく一部です。邦画ではあまりクトゥルフ神話が題材として取り上げられることはありませんが、洋画ならばそれなりの数が見つかります。代表的なものとしましては……
タイトル | 内容 |
---|---|
ゴジラFINAL WARS | モブとして佐野史郎が登場し、「古きものどもが蘇る」と叫ぶ |
ネクロノミカン | ラヴクラフトが登場人物の1人として登場 |
マウス・オブ・マッドネス | 『ピックマン』などクトゥルフ神話関連の単語が登場。世界観そのものの雰囲気も類似 |
The Call of Cthulhu | ラヴクラフトの『クトゥルフの呼び声』を原作とした映画 |
フロム・ビヨンド | ラヴクラフトの『彼方より』を原作とした映画 |
ZONBIO/死霊のしたたり | ラヴクラフトの『死体蘇生者ハーバート・ウェスト』を原作とした映画 |
これらのみならず、捜せばまだまだ大量にクトゥルフ神話関連映画を見つけることができます。また、実際には関係ないにもかかわらず、雰囲気や類似性から関連作品なのではと勘ぐってしまう作品も少なくありません。
そうなったときは時すでに遅し、もう立派なクトゥルフ神話の狂信者の仲間入りです。イア・イア・クトゥルフ!
まとめ
いかがでしたでしょうか。宇宙的恐怖を体現した『クトゥルフ神話』。それは、今もなお我々が様々な形で触れることができるエンターテインメント作品の端々に、その爪痕を残し続けています。
これらは到底一息で紹介しきれるものではありません。映像作品のみならず、マンガ、小説、ゲームなど、いたるところに暗澹たる混沌は潜んでいるのです。
……さて、私もそろそろこの記事を書き終えるとしましょうか。それにしても、先程から部屋の向こうが騒がしい。何かぬめぬめしたものが、扉にぶつかっているような音がする。
しかし、ドアを破ったところで私は見つかりはすまい。
いや、そんな! あの手は何だ! ああ、窓に! 窓に!